「マリア、もうやめて……早く逃げなさい!!」
 水鏡さんが、後ろから悲痛な叫びを上げる。

「水鏡、やめろ!」
 宗像さんが制止する声も、さっきより、ずっと遠くに聞こえる。

 しかし、ウリエルが私の傷に気を取られた瞬間、マルコシアスはウリエルのツメから逃れた。

「くそ……大丈夫か。マリア!?」
「ウリエル……ごめん、大丈夫よ。」

 軽い傷を負った私たちは再び、距離を置いて対峙した。

「へえ、驚いた。悪魔ウリエルでも、女の子の悲鳴でスキができるなんてね!」

 トランプをふっと吹いて、ジョーカーは呆れたように笑った。

「今日のところは戻ろう、ジード。マルコシアスの傷は、見た目より深いよ?」

「待ちなさい!!学校を荒らしておいて、タダで済むと思うの!?寮のガラスだって、割れてメチャクチャじゃないの!!」

 私が怒ると、ジョーカーは笑った。

「ふふ……キミの心に、僕の存在を刻み込めれば、それでいいんだよね。それより、僕のことを遊びにしたら許さないよ、マリア?」

 私の腕を切りつけたトランプのカードが、ジョーカーの手の中で光ったかと思うと……

 夜の闇に熔けるように、ジョーカーの姿は消えた。 

「チッ……しょうがねえな……戻るぞ、マルコシアス!」
 続いてジードの姿も消え、学園は再び静寂を取戻した。

「ウリエル……契約主マリアが命じる。封印の眠りにつけ。」

 私が命じると、ウリエルの姿も消え、学園から完全に悪魔の姿が消えた。

「う……」
 私は、目の前が真っ暗になって、その場に倒れた。

「おい、マリア、しっかりしろ!!」
「大丈夫ですか、マリア!?」
 水鏡さんや宗像さんが、私に駆け寄った。 

「はい……」

「全く、どこの馬の骨ともわからん男に、のこのこついていくからだ。」

 湧き上がる怒りを抑えるように、宗像さんはゆっくりと右手の手袋を外した。



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