「皆、下がって!!」

 私が叫ぶと、私の目の前が、黒一色に染め上げられた。

 少女の口から、インクのように漆黒で、タールのようにぬめる、大量の悪魔の影が吐きだされた。

 小さな無数の破片が、部屋中に散った。壁に刺さっていた万年筆が、ポロリと壁から落ち、床に転がる。


 次の瞬間には、黒い悪魔の残影は分解して消え去った。

 ベッドに横たわる少女の病んだ表情も、ウソのようにおだやかになり、静かに寝息をたてていた。

 間一髪だったけど、悪魔祓いは成功した。
 ……良かった。……次に目が覚めたらきっと、彼女は人間らしい生活にも弐れるんだ……そんな実感が湧いてくる。

「悪魔ウリエル。契約主マリアの名のもとに、汝を封ず。」
 私はウリエルを封印すると力を使い果たし、倒れた。

「マリア、大丈夫か!?」

 宗像さんや、水鏡さんが私の視界の一部で、私をのぞきこむ。

「はい。全然平気ですよ……!」
 私は、今できるせいいっぱいの笑顔を浮かべて応えた。

 依頼人の男性が、すまなそうに頭を下げる。

「すまない。娘と同じくらいの年の君たちにすがるのには抵抗があったんだが……ありがとう。」

 既に、私の視界はほとんど闇だった。その狭い視界の端に、死人のように白い手が見える。

 それが、自分のものだと気づく前に、私は意識を失った。

……………………………………………………



「こんなの、間違っています!エクソシストが、悪魔の力を信じているなんて!」


 水鏡は、依頼人の屋敷の客間でエフレム神父に抗議した。



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