「いらないわ。学校の生徒たちには危害を加えないで」

「哀れなヤツだな。それなら、独りで苦しめばいい」
 ウルルはため息をこぼして、再び動かなくなった。

 とうとう、空から雨がぽつりぽつりと降り始め……次第にその激しさを増してきた。

「雨かあ。濡れるのはキライだし、今日は帰るけど……」

 金髪の男子学生は、小瓶をジャケットのポケットにしまった。

「お前みたいな女は、いずれ信仰の敵になる」

「目障りだわ。もう構わないで」

「でも……今のうちに学園から出て行ったほうが、身のためだよ?」
 そう低い声でつぶやいて、男子生徒は立ち去る。

 私は立ちあがって高圧的な男子生徒を一瞥すると、寮のほうへ向かって歩き出した。


 私は小ぶりの雨の中を、裏道を通って寮に戻った。聖水をかけられた部分が、やはり強く痛む。

「……うう……痛い……」
 ズキズキとかゆみと痛みに全身を蝕まれ、私は小さくなって歩いた。

 それでも、帰る気はなかった。私にはエクソシストとしての仕事や、役目があるもの。
 そのためにここにやってきたはずだ。だけど……

「うう……ひっく……」
 少し、涙がこぼれた。どうして、こんなに遠くに来ちゃったんだろう。
 なつかしい故郷から、こんなにも遠い場所に。


 そう思うと、目の前にウリエルの姿があった。

「マリア。お前は、本当に馬鹿な女だな」

「ウリエル……」

「しょせん人間はお前の味方じゃない。傷つくぐらいなら、淡い期待など持つな」
 ウリエルの指が、私の頬を伝う涙に触れた。

「いいか、マリア。お前が侮辱されることは、オレが侮辱されることだ。わかるな」

「……う……うん……」




■Next (7/8)


TOP

karinEntertainment2009