「おい、マリア。いいのか? 勝手に逃げてきて……」
ウルルが私の背後から話しかけてくる。
「うん。ひょっとして迷惑かなって……ウルル……ついて来てたの?」
「おう。部屋にいてもヒマだからな」
私はウルルをカバンの中に押し戻した。
「ちょっとウルル……人前では、しゃべらない約束でしょ!」
私はウルタド神父の言葉を思い出した。
“いいかい、マリア。神はこう戒められた。人間は、一人で生きてはいけない、と。どんなに力をもっていても、人の迷惑になるとしても、人間は一人で生きてはいけないんだよ。”
優しいウルタド神父の言葉を思い出すと、涙腺が熱くなる。学園内を歩いていても、周囲の生徒たちは皆、楽しそうだ。エクソシスト科は男ばかりだけど、看護科には女子生徒が多いらしい。
教室の外からは、女の子らしい華やかな笑い声が聞こえてくる。
「やだー。あはは、それ本当!?」
「本当だって! じゃ、日曜に遊びに行こうよ!」
看護科の制服の女子生徒達を横目に、私が寮への裏道を抜けようとした時……
「ちょっといいかな?」
金髪の男子生徒が、私の行く手をさえぎった。
不機嫌そうに、クセのある髪をかきあげると、やはり金色の瞳で私を一瞥した。
「君、悪魔憑きって噂、本当なの……?」
「……貴方には関係ないでしょう」
私は、男子生徒の言葉を軽く流す。
「関係ある。お前が本当に悪魔憑きだったら、この学園に入学させるのは問題だし。まず、悪魔祓いを済ませて転入するのが筋だよね?」
シュ……!
男子学生が後ろ手に隠し持っていた瓶の中身を、私に吹きつけた。
……聖水の入った小瓶だ。
「やめて……ッ!!」
私の皮膚に激痛が走る。激しく刺すような痛み。
(しまった……油断した……!)
その時、ウルルのひそひそ声が聞こえた。
「どうするマリア?やり返すなら力を貸すぜ?」
ウルルが、私の耳元で小さくささやく。
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