「ま、立ち話もなんだし、カフェに入って座ろうよ。……僕はジョーカー。君がマリアでしょ?」
 謎のおかっぱ少年は涼しい顔をしている。

 どうして私の名前を知ってるんだろう。身体は死んだように冷たいし。

 それに、気付いたらカフェの前に居るなんて。

「でも私、すぐに戻らなきゃ……!」


「いいじゃない。少しお茶していこうよ?」
 ジョーカーと名乗る少年から、悪魔の気配を感じる。 

 さらに驚いたことに、少年は私の携帯を取りだした。
「私の携帯……いつの間に!?返して!」

「返して欲しい?じゃ、お茶に付き合ってくれる?」
 そう言ってケータイを自分のズボンのポケットに仕舞った。

 一体いつのまに奪ったんだろう。

 それに全く気付かない自分の間抜けさも、相当情けない。

「さ、マリア。ここの黒い森のケーキは絶品だよ。ああいう濃くて甘い系の味好きじゃない?」

「…………………………」
 おもわず軽く絶句した。

 確かに、好きだけど。
 どうして、私の好みをこの人が知ってるんだろう。

 前に会ったことはないはずなのに……

「大丈夫。お茶したら君はすぐ寮に帰れる。心配しないで。僕は約束は守るし、仲間と女の子には優しい。」
 ジョーカーは、カフェの椅子の背を引いた。

「というわけで……さ、どうぞ、マリア。」
 肩をポンと叩いて、私を椅子に座らせた。

「!!」
 この冷たい手で、優しく触れられただけなのに、私の身体は勝手に椅子に沈みこんだ。


 これも悪魔の力?それとも……


「ああ、僕のおすすめを選ぶから、今日は任せて?あ、アールグレイと、黒い森を2つずつね。」
 ジョーカーは勝手に注文した。



「…………………………………」

「ところで僕、今新しい部屋を探してるんだ。大家さんが寛大で、融通のきく部屋がいいな。どっか知らない?」

「……知らないわ。」



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