「悪魔よ、彼女から出ていきなさい。そこはお前の居るべき場所ではない……!!」
天使ザカリエルは悪魔の喉笛に、光り輝く槍を突きつけた。周囲の霧状の聖水が、時が止まったように空中で静止する。
次の瞬間、針のように形を変えた水が、少女の身体を突き刺した。
「ぎゃあああああ……!!」
天使ザカリエルは水を媒介に、悪魔に衝撃波を送り込む。悪魔の全身に、ケロイドのような痛々しい跡が浮かび上がり、皮膚が焼け爛れたような煙を舞い上げる。
たちまち独特の臭気が、周囲にたちこめる。
「ガアァァァ……ッ!?」
苦しみもがく悪魔。もうひと押しで、少女の身体から追い出せそうだ……!
「天主の御力により、悪魔を永久に地獄に閉じ込め給え!」
成功を確信した声で、水鏡さんは天使ザカリエルにさらなる追撃を祈った、その時。
水鏡さんの目線が、悪魔憑きの少女の目とあった。
「………………くッ………何……だ?」
水鏡さんはほんの僅かな間、呆然として目の焦点を失う。
そして水鏡さんを包んでいた光が、一瞬で消失する。
「天使ザカリエルの加護が消えた……?まさか……そんなことはあり得ない……何故!?」
気を取り直して、天使の気配を探ろうとした水鏡さんが、周囲を見回した、その瞬間。
シュと……万年筆が漆黒のインクを散らしながら飛ぶ。
「危ない……!!」
私は咄嗟に、水鏡さんをかばって前に飛び出していた。万年筆が水鏡さんの額をかすって、壁に垂直に突き刺さる。わずかに線状に傷ついた水鏡さんの額から、一筋の血が流れ落ちた。
水鏡さんが悪魔の標的になっている……私は、警戒しながら構えの姿勢を取った。
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