「……ああ。おやすみ」
「おやすみなさい」
吐き捨てるように謝って、日和は部屋に戻る。
宗像はやれやれ、と肩をすくめた。
「天使オリフィエル……あなたの加護を受けながら、役目を果せなかったこの私を、お許しください……!」
パン、と音をたてて、日和は皮の鞭で自らの背中を打つ。
背中には、度重なる鞭の跡が、痛々しく残っている。
「神の国に召された、お母様にどうか祝福を。そして、僕に、悪魔に打ち勝つための加護をお与えください。」
パン、とまた鞭の音が響く。
延々と続く乾いた音は、その晩、遅くまで続いた。
その音は、いつも隣の部屋の水鏡の寝耳に入る。
水鏡は、ベッドに横になりながらつぶやいた。
「マリア……確かに、貴方が来てから……この白百合寮に不穏な空気が流れています。」
水鏡は、蝋燭の火を見つめてつぶやいた。
「日和……貴方は間違っていない。ですが、事を急ぎすぎる。私は十分に計画を練るつもりです。悪魔ウリエルに対しては、敗北は死を意味しますからね……」
ジリリ、ジリリリ……!
「ああー、昨日はあんまり、眠れなかったな……」
翌日6時。私は、いつものように大きな目覚ましのベルで起きた。
朝食のとき、日和やはり一言も話さず、顔にはまだ昨日の怪我を残していた。
宗像さんも機嫌が悪い。キリトだけが空気を読めず、一人でお気楽。とにかく、場の空気がまずい。
私は早々に朝食を切り上げて、学校の教室へと向かった。しかし……
「おい、アイツだろ?九条院の顔、ボコボコにしたの。」
「悪魔憑きだって。不用意に近づくと、殺されるよ。恐ろしいヤツが転校してきたよな、まったく」
私を遠巻きにして、生徒達がざわめく。
どうして、こんな噂が広まってしまったんだろう……?