周囲の皆が私を恐れている。今更、身体が震え出す。
「どうした?優しい言葉を期待していたか?誰かに褒めてもらいたかったのか?」
暗闇から、ウリエルがささやいた。
「別に、そんなこと……」
「いいか、お前の苦しみをわかってやれるのはオレだけだ。忘れるな、マリア……」
その日、ウリエルの声は、これを最後に鳴り止んだ。
今、この街にも多くの悪魔の気配を感じる。心を病み、呪いや魔術に頼った多くの人が、悪魔に心身を奪われる事件が増えている。
私にエクソシズムを教えたウルタド神父は、残念ながら、今後悪魔憑きは増えるだろうと嘆いていた。
悪魔ウリエル……私を異端のエクソシストとしての運命に追い込んだこの悪魔こそが、
今、私をもっとも保護し、理解する存在だとは……全くなんという皮肉だろう。
ウリエルが残した、黒い煙の結界はまだ私を守っている。これに包まれている間は、人々の刺すような視線からも、守られている気がした。
その時、誰かの手が私の頭に触れた。大きくて……とても暖かな手。
「マリア。お見事だったね。」
「アレッサンドロ枢機卿……」
優しく柔らかな雰囲気。この凄惨な現場でも私に救いを与えてくれる声。
「マリア、お前は神の子だ。この頭には、素晴らしい栄冠が輝いている。きっと主も祝福してくださっているだろう。」
ふかふかの毛布が、私をくるむ。
「さあ、帰ろう。君の還るべき家へ。」
教会の鐘が鳴り響く。18時を知らせる鐘だ。
もうすぐ寄宿舎の食堂では恵みのスープが配られるだろう。
血に濡れた心身を洗い流す、あたたかな祝福を夢想し……失われつつある西陽の中で、私は気を失った。
「来月日本へ送るエクソシスト……マリア、やはり君を推しておくよ。」
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