「ところで、どう?最近のマリアの彼?」
シスターピエリナが、ぎろりと私たちを見る。
……彼といっても、人間の話ではない。
実は私には、とびきり強力な悪魔が憑いているのだ。
その名は悪魔ウリエル……地獄の番人として名高い強力な悪魔。
いつのまにか噂が広まって、信じる人にも信じない人にも、私は法王庁の中ではすっかり異端扱いされていた。
「きゃ……!」
そのことをぼうっと考えていて、私はコップの水をこぼしてしまった。
せっかくやり過ごした鬼のシスターピエリナが、私たちの側に戻ってきた。
「シスターマリア。何かよからぬ事を考えごとでも?貴女の噂は、私の耳にも届いていますよ?」
「ははは、まあその辺で許しておあげなさい。」
優しく柔らかい声が、彼女を制止した。
「あ、アレッサンドロ枢機卿……どうしてここに……!?」
「いえ、私は可愛い神の子供たちの顔を見にきただけですよ。」
40代くらいの立派な体格に、グレーの髪を品良くなでつけた枢機卿は、コップを拾い上げて衣服の裾で拭き、私の目の前に戻してくれた。
そして立ち去る前に、私に微笑んだ。
「貴女に、神の祝福を……」
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次の日、私はロージ神父のお手伝いで、街へ買出しにいくことになっていた。
いつもはつつましい修道生活を送る私にとって、仕事と言えど、バチカンの外に出るのは久しぶりだ。
ロージ神父はストレートの栗毛に眼鏡をかけた若い神父さま。勉学には明るくても、買い物は苦手らしい。
最近は彼のお目付け役として、私がつきそい&お手伝いを命じられることが多かった。
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